腕の力

脊髄小脳変性症と診断されてから2年が経った。
杖をついて、短距離ながらも辛うじて一人で歩いた道は、両腕を支えてもらわないと歩けない。
生まれたてのフニャフニャな赤ちゃんは首が据わり、おすわりが出来るようになり、ハイハイをしたりイザリながら移動し、つかまり立ちをして、歩き始める。私は現在、それを逆行している。
かまり立ちは出来ても、立ち続けられないし、つかまり歩きも覚束ない。平行棒につかまりながら二往復するだけで、平常70弱の心拍数は100を越える。膝で立つことも出来ず、背もたれのない椅子には座り続けていられない。バランス感覚の崩壊は上半身にまで忍び寄ってきているようだ。

今、立ち、座り、移動する時には、腕の力が私を支えている。洗濯、料理、掃除などの家事は出来ないけれど、腕の力を借りてトイレ、入浴、更衣など日常の生活は自力で行える。3人の子供を育て上げた逞しい腕は頼りがいがある。
何時か、この腕の力が弱り、頭を支える心棒が消滅する日がくるのだろう。
その時には、入所したい施設も決めてある。とは言え簡単に入れると思ってはいないし、そもそも、そう早くは進行して欲しくない。