寒の入り

朝、窓を開けると冷たい空気が鼻腔に滑り込む。そうだ、こんな気配の中をよく歩いていた。
ここのところの、日中の窓越しの陽射しは暖かい。年明けに手に入れた座椅子に腰を下ろすと、ウトウトと眠りに引き込まれる。私がディに行っている時は、猫プーのまどろみの場になっているようだ。私が座っていると、近寄って恨めし気に訴えてくる。
「ヒナタボッコ シタインダケドナア」
意地悪母さんは、からかい顔でプーを見る。
「ふっふっふ ここはアタシの席なのよ!」
プライドの高い彼女は、母さんに甘える事は出来ない。
二人の仲を取りもとうと、姉さんがプーを母さんに託す。疲れて一休みしている母さんのお腹の上に押し込められたぷーは、その温もりの魅力に負けてしまい、抜け出る事は出来ない。母さんの胸の上に両手をのせ、虚ろな瞳で見上げる。
「アタシ ドウシヨウ」
すると母さんの中の『あるもの』が猫プーを包み込み囁く。
「そうら、暖かいでしょう? 目をつぶってごらん」
母さんの中に在る『あるもの』
それは母さんであり、母さんではない。
いつもは、身を潜めているけれど、
母さんが打ちのめされた時、疲れた時、
母さんを守る為に、きらめき出す。
よれよれ母さんをゆったり包みこみ、癒す。母さんの押しつぶされた意欲の芽に息を吹きかけ、力づける。すると母さんは、また頭を持ち上げ、立ち直る。
一時間程経つと、疲れた母さんは癒されて、自我が目を覚ます。そして猫プーの本能は『あるもの』の影が薄れていくのを察知して、ブルルッと身を震わせ、母さんの懐から這い出していく。
「アシタハ アタシガ スワルカラネ」
陽当たりに置かれた、座椅子争奪戦はしばらく続きそうだ。