借り物暮らしの間借り人

このところの気温はけっこう温暖の差が激しく、身体の慣れが追いついて行かない。冷たい四月の雨が降った翌日に、七月の陽射しが顔を見せたりで、着ているものにも気を使って調整をしてはいるが、時にはつまずくこともある。
何時もの通りの朝を過ごしたけれど、どうも調子がおかしい。睡眠不足であるはずはないのに、眠たくて眠たくてたまらない。その日は、午前、午後とも横になって過ごしていた。『これって、おかしいよ』夕方近くになって熱を測ってみると七度六分ある。どうも気温の不安定さに負けて、体調を崩したらしい。結局二日間、体温計を片手に養生をした。
いつでも熱が測れるようにと、ベットサイドの机の上に体温計を置いていたはずなのに、病み上がって日常に戻った時、片付けをしようとしたら、そのピンクの体温計が見当たらなかった。机の下、ベットの周りと探したけれども、見つけ出す事ができない。
あるべき所にないなんて、誰かが何処かに移動したのか。そう言えば最近、娘のピンクの計算機が見当たらないという。
近頃どうも我が家には、借り物暮らしの人が数人、立ち寄っている気配がする。彼等が可愛いピンクの色合いに心を引かれ、悪戯心をかき立てられて、ちょっと拝借と持ち出したのではないだろうか。けれども、使い勝手も分からぬままに早々に持て余し、人目を忍んで戻しておいてくれるだろう。
見当たらなくなったものを放っておくと、借り物暮らしの人々は、遠慮なしに次の借り物を持ち出して行く。けれどこちらが素早く探し出せば、次には気を使って、忘れ去られて放置されているものだけを借りて行く。
明日には、思いもよらぬ本の間とか、ベット周りの隙間の何処かに、戻っているに違いない。だから、明日また、目を改めて、見つけ出そう。