病室の人々

このリハビリ総合病院はベット数180床,4つの病棟に分かれている。私の入院した病棟は整形外科系で、転んで骨折した人、交通事故で怪我をした人、足、腰の持病の治療後、手術後の患者が多く集まっているようだ。そのせいか、骨が弱くなって来ている老齢の婦人が圧倒的に多い。個室か四人部屋、勿論私は四人部屋。それでも各自ベットサイドに車いすを置いても十分なスペースがある。広い廊下、大きな一枚ガラスの窓、その向こうからは丘陵の斜面が季節を伝えて来る。比較的新しいこんな病院でリハビリを受けられるなんて、幸せな事よね。
この部屋で私は10人の人々と出会った。話の中にそれぞれが過ごして来た人生の重みが感じられる、私より年のいった人々であった。
 最初に退院して行ったのは、名付けてオバチャンは80才台前半。一見、町中の横町に住んでいる気さくなおばちゃん。良く知り合えば意外と親切なのかもしれないが、2週間の生活では理解し得なかった。彼女は同室の仲間に対してクールで傍観的だった気がする。病室ではベットに寝転んで文庫本を読んでいたし、でなければ、すうーと部屋を出てホールでテレビを見ている。入院満期(3ヶ月)で追い出される前に出て行くよと、大阪に住む人の良さそうな一人娘さんがよく退院の打ち合わせにきていた。一人では車椅子かサークルで移動していたが、フロアリハビリでは上手に杖歩行をしていた。退院後は独り住まいで、介護保険を活用した生活をするようだ。時にはきつい言葉も出るオバチャンに、にこにこ応対する50才くらいの娘さん、何か微笑ましかった。
 その場所に入って来た奥さんは、神社の長い階段をおりる途中転んで、片足を溝に挟んで骨折し、前日他の部屋に入院したが、西日の当たる部屋で部屋が暑くて寝られないという。西日の入らない部屋という事で、ベットごと引越しして来た。が同室の一人がそこのベットは夜中トイレの水音がうるさいですよというと、今後部屋の苦情は言わないという言質をとられ、わずか15分でもとの部屋へ戻って行った。